三代目のはなし(裕之)
祖父が石を積み、父が樹を植えた段々畑を、わたしが受け継ぎました。継いだころは、正直、みかんの季節が怖かった。一年の答えが、たった二ヶ月で出てしまうからです。いまは違います。皮をむいた瞬間に果肉が透けて光る——あの一瞬のために一年があると、ようやく思えるようになりました。
MIKAN農園は、夫婦ふたりの小さな農園です。畑は裕之、選果場はさつき。収穫の季節だけ、町から十人ほどの仲間が手伝いに来てくれます。大きな機械はありません。あるのは、段々畑と、一二〇〇本の樹と、毎朝のぼる太陽だけです。
祖父が石を積み、父が樹を植えた段々畑を、わたしが受け継ぎました。継いだころは、正直、みかんの季節が怖かった。一年の答えが、たった二ヶ月で出てしまうからです。いまは違います。皮をむいた瞬間に果肉が透けて光る——あの一瞬のために一年があると、ようやく思えるようになりました。
選果場はさつきの持ち場です。ベルトを流れるみかんを、機械ではなく目と手で確かめる。『機械は糖度を測るけど、うちは顔つきを見るんです』と本人は言います。皮の張り、色の底にある赤み、ヘタの緑。彼女がはねたみかんは、加工用として一つも無駄にしません。
十月になると、なじみの顔が畑に戻ってきます。学生、近所の先輩、毎年京都市内から通ってくれる人。朝八時、段々畑に十人ぶんのはさみの音が鳴りはじめると、農園がいちばんにぎやかな季節です。