景色は、窯がつけた名前。
焼き上がった器の表情を、焼きものでは景色と呼びます。灰音窯の器には釉薬をかけません。だから景色はすべて、炎と灰と土のあいだで起きたことの記録です。窯のどこに置かれたかで、同じ形の器がまるで別の顔になります。
窯のどこに置くか
穴窯は傾いた斜面に掘った、ひと部屋きりの窯です。焚き口に近いほど炎が強く当たり、奥へ行くほど灰が静かに降ります。窯詰めは、どの器にどの景色を負わせるかを決める仕事でもあります。
炎に向けた面を火表、その裏を火裏と呼びます。火表には炎が直に当たって火色が出て、火裏は穏やかな肌になります。灰は上を向いた面に広く積もり、熔けて流れ、低いところに釉だまりをつくります。窯の底、燠に埋もれる位置の器は、黒褐色の焦げを負います。
とはいえ、思ったとおりになることはほとんどありません。四日四晩のあいだに窯の中で何が起きたかは、冷めてからでないと誰にも分かりません。窯出しの朝、はじめて答え合わせをします。
景色の小事典
器を手に取るとき、この七つの言葉を知っていると、見えるものが少し増えます。
- 火色(ひいろ)
- 炎が直に当たった面に出る、橙から緋の発色。土に含まれる鉄分が、酸素の多いところで酸化して生まれます。器のどちらを焚き口に向けたかが、そのまま色として残ります。
- 自然釉(しぜんゆう)
- 降り積もった赤松の灰が、土の中の長石と熔け合ってガラスになったもの。釉薬をかけずに生まれる釉なので、この名で呼ばれます。灰被りとも重なる言葉です。
- ビードロ
- 自然釉のうち、ガラス質に熔けたもののこと。その色は、灰にわずかに含まれる鉄分が、酸素の少ない窯の中で発色したものです。器の上を向いた面に広くかかります。
- 釉だまり(ゆうだまり)
- 熔けたビードロが流れ落ち、その先に厚く溜まったもの。とんぼの目のように、ぽつりと三つ並んで溜まることもあります。光の当て方で色の深さが変わります。
- 焦げ
- 灰や燠に埋もれた部分が、黒褐色に炭化した景色。窯の底に置かれた器の裾に出ます。ビードロとは正反対の、いちばん静かな表情です。
- 石はぜ
- 土に混ざった石英の粒が、焼成中に表面ではぜて割れた跡。荒土ならではの景色で、白い粒が肌にぽつぽつと浮きます。砂粒を多く含む土だから起こることで、きめの細かい土ではまず現れません。
- 蟹の目(かにのめ)
- 長石の粒が熔けて、小さなガラスの玉になったもの。石はぜと並んで、古琵琶湖層の荒土がくれる景色です。光を斜めから当てると、その粒だけが艶を返します。
使うほどに、変わります
無釉の器は、水を含み、油を含みます。使いはじめの一年で肌の色が落ち着き、ビードロの縁に細かい貫入が走ります。景色は窯出しで終わりではなく、使う人の手のなかで続いていきます。
はじめて使う日は、しばらく水に浸してからにしてください。乾いた土は汁気を一気に吸うので、先に水を含ませておくと、しみが残りにくくなります。石はぜの粒も釉だまりのふちも、手のあたるところからなじんでいきます。
使ったあとは、洗ってよく乾かしてください。土の芯まで乾くのには時間がかかります。しまい込むより、棚に出しておくほうが器のためになります。